魅惑な小悪魔6
大学校内にある食堂でコーヒーを飲んで休憩している陽介。前のテーブルには、カップルが楽しそうに話しをながら昼食をとっている。その姿を詰まらなそうに陽介は眺めていた。
久しく女性と付き合っていない。遊んでもいない陽介。辛いわけではないが、虚しい人生を送っているような気がするのはなぜだろうか。仕事が忙しいと言い訳をしているが、もっと遊ぼうと思えばいくらでも時間を割いて夜の街へ繰り出せるはず。
弁護の仕事を沢山受け持っていたときも、『息抜きも必要』とか言いながら、暇そうな女性をナンパしてはホテルに行っていた。今だってそういう生活をしようと思えば出来るはずなのに、なぜしなくなってしまったのだろうか。
「今夜は…行くか」
ポツリと独り言を言うと、食堂にいたことを思い出した。慌てて周りを見渡す。陽介の独り言を聞いていた学生はいないようだ。安心してため息をついた。
「お? 珍しい奴がきた」
バーに入るなり、店員にそう声をかけられる。高校から友人、岡田の店に足を運んでみた陽介だった。
「元気にしてたか?」
岡本に話しかけながら、陽介はカウンター席の一番端に腰を下ろした。肩から重たい鞄を下ろすと、足元に静かに置く。
「仕事大変なんだってな」
「え?」
「麻衣ちゃんから聞いてるよ。大学講師と弁護士を両立してるんだろ? 凄いよなあ。 高校のときから頭だけはいいと思ってたけど、そんなに出世しているとは、知らなかった」
『頭だけ』・・・岡田の言葉に引っかかりを感じる陽介。岡田と話すときはいつもこんな感じだった。冗談を交えて、少し辛口で話す。この会話が心地いい。
「あいつ、来てるんだ」
「麻衣ちゃんのこと? よく飲みに来るよ。何年か前のお前を見ているようだよ」
「あ?」
陽介は怖い表情になる。
「麻衣ちゃんも大人になったよね。男の扱いが上手い! 見ていて楽しいよ」
「あっそ。早く酒をくれよ」
「あれ? 何でそこでお前が不機嫌になるんだよ」
岡本と目が合う陽介。完全に彼に遊ばれている。『麻衣』のことを聞いて、感情をむき出しにしてしまった自分も悪い。
自分の知らない彼女の姿を知ると苛々してしまう。家で一緒に過ごしていない間の女の部分を知りたくない。いや、知りたい。知りたいと思うが、彼女が男と遊んでいて欲しくないと願ってしまう。
「苛々するなら、ちゃんと繋ぎとめておけよ」
岡田は面倒くさそうに話す。
「酒」
「陽介! お前らしくないぞ」
「・・・繋ぎとめておく筋合いは俺にはない」
陽介は岡田を睨みつける。麻衣とは同居人。彼女が外で何をしていようが、自分には関係ない・・・関係ないと割り切るようにしている。
「いいのか? それで。あんなに魅力的な女性に育て上げといて、他の男にお前はあげちゃうのか?」
「俺が、あいつを綺麗にしたわけじゃない」
「今の彼女があるのはお前のおかげだろ。女性として魅力が出てきたのだって、お前と一緒に住むようになってからだろ・・・」
陽介は岡田の目を見る。彼がうそを言うような人間ではないが、冗談やお世辞は得意。今の言葉にお世辞は含まれていないことを、陽介は目を見て判断した。
麻衣が女性として魅力が出たのが、自分と暮らし始めてから・・・。そんな風に思ったことは一度もなかった。岡田がそう言うのだからそうなのだろう。しかし、今の彼女の魅力を引き出したのは自分ではない。社会に出て沢山の経験を積んだからに違いない。
「酒」
「逃げるなよ。好きなんだろ? 麻衣ちゃんのこと、少しは考えてやれよ」
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