魅惑な小悪魔12
陽介はお風呂から出てくると、麻衣がムスッとした表情でソファに座っていた。
「これ、五月蝿いんだけど」
麻衣はテーブルに置いてある、陽介の携帯を指差すとジロリと彼の顔を見た。
こんな夜に電話をかけてくる人は誰なのだろうか。出ない場合は留守電に切り替わるように設定されているはず。だいたいの人はその留守電に用件を入れるか、メールをして、何回も電話をしてくる知り合いなどいない。
それともすぐに用件を伝えたいような内容なのだろうか。
「電話? メール?」
頭をタオルで拭きながら、麻衣に聞く。もうずっと同じ着メロを使用している。一緒に暮らしている麻衣も聞きなれているはずだ。
「両方。どっちかっていうと電話のほうが多いかも」
「そんなに?」
「そんなに」
麻衣は瞳を閉じて言うと、自分の横に置いておいた雑誌を開いて読み始めた。
陽介はタオルを肩にかけると、携帯の画面を開いた。
本当に多い。しかも知らない番号から何回もかかってきていたようだ。陽介はボタンを押してメールを開く。これもまた知らないアドレスだった。
『先生、初メール! 今、何してるんですか? 寛子は先生からの連絡、待ってるね』
「寛子ぉ?」
陽介は、メールに書いてあった名前を嫌そうに口に出して言うと、そんな人間が自分の知り合いにいたかどうか考え始めた。
麻衣は雑誌から目を離すと、眉間に皺を寄せている彼を見つめた。
「さっき会った子じゃない?」
麻衣の助言に、『あっ』と声を上げる陽介。確か、彼女の名前は椎名 寛子だった。
しかし、生徒のはずの彼女がどうして自分の携帯の番号とアドレスを知っているのだろうか。
「陽介がトイレに行っているときに赤外線っていうの? あれで、自分の携帯に送信していたみたいよ」
また、麻衣の言葉に納得する陽介。一瞬、目に力を入れると、彼女の顔を見た。
麻衣は雑誌に目を戻しており、彼の視線を感じて顔を上げた。
「何で知ってるの?」
「超能力」
「は?」
「冗談よ。見ちゃったの、陽介が席を立った後に急いで携帯を探し出して、自分の携帯にデータを送ってるの。だから…」
陽介は深いため息をつくと、麻衣の隣に腰を下ろした。
「何だよ…知ってるなら、教えろよ」
「好きな人の情報は知っておきたいでしょ?」
「だからってな…」
麻衣はクスリと笑うと雑誌をテーブルに置いた。
「こんなに電話やメールをしてくるとは思わなかったの。ただ憧れの先生のことを知りたいって思った上での行動だと思ったから。彼女は携帯を盗み見たって陽介が知ったらいい気はしないでしょ? あからさまに嫌がると思ったから…そうしたら一生徒として、彼女を見て上げられなくなるから。可愛そうかなって思って」
陽介はソファに背中を預ける。麻衣の言うとおりだ。あの時に彼女はしたことを、麻衣から聞いていたら、教師であることを忘れて怒っていただろう。そして彼女のことを避ける。生徒として平等に彼女と接しれなくなっていた。
今もかなり彼女にたいして軽蔑の念はあるが、麻衣に冷静な判断で言われた言葉もあり、そんな怒りはない。
「参ったな」
「無下には出来ないって?」
陽介は麻衣の顔を見る。
「いや。麻衣がいい女に見えてきた」
「あら? 惚れた?」
「キスしていい?」
「嫌だ」
麻衣は即答すると、体の向きを変えて雑誌に手を伸ばした。
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